著者: あわしろいくや
ようこそStarSuite記念館へ。このページでは悲劇の末路を辿ったStarSuiteを忍び、少しでも記憶に留めるべくその勇姿をご紹介します。
本Webサイトは検証結果の紹介を目的としており、実際の使用を推奨するものではありません。ここで紹介しているものはどれもリリースから少なくとも4年以上経過しており(ものによっては10年以上)、その間セキュリティの修正などは全く行われておりません。もし手元にあったとしても使用しないでください。これから使用するのであればLibreOfficeを強く推奨します。
StarSuiteはSun Microsystemsが発売していた、OpenOffice.orgの商用版です。OpenOffice.orgに多数のテンプレート・ギャラリー・フォントを追加し、商用サポートを提供していました。
Sun Microsystemsはその後Oracleに買収され、StarSuiteもOracle Open Officeと名前を変えましたが、その後まもなく開発部門をレイオフし、商品も打ち切り、OpenOffice.orgはApache Software Foundationに寄贈され、Oracle Open Officeは葬られました。
StarSuiteは、日中韓以外ではStarOfficeという名前で販売されておりました。日本にはすでにStarOfficeがあったため、商標の都合上StarSuiteとなったのです。
英語版Wikipediaの記載に詳しいのですが、日本語でも簡単に解説しましょう。
もともとはドイツのハンブルグにあったStarDivisionという会社のオフィススイートでした。これを1999年にSun Microsystemsが買収し、2000年にはオープンソースソフトウェアとして公開し、2002年にはStarSuite 6.0として日本でも発売されました。
その後2003年にStarSuite 7、2005年にStarSuite 8、2009年にStarSuite 9と順調にバージョンアップを重ねましたが、2010年1月にOracleによって買収され、Sun Microsystemsはなくなりました。
OracleがOpenOffice.orgをどうするのかは、買収直後に公表されたOverview and Frequently Asked Questionsによると、OpenOffice.orgはオープンソースで開発とサポートを継続し、エンタープライズユーザー向けに商用サポートも提供するとのことでした。
2010年に公開したプレスリリースでも開発の継続を表明していますが、翌2011年4月15日にはコミュニティベースのプロジェクトにする旨の発表を行っています。このタイミングで開発チームもレイオフされたものと思われます。
StarSuiteはOracle Open Officeと名を変え、3.2.1/3.3.0/3.3.1がリリースされ、その短い寿命が尽きたことになります。
あわせてLibreOffice/Apache OpenOffice ~2011年の総括と新たな選択~もお読みください。
StarSuiteには多数のクリップアート(ギャラリー)が追加されていました。
StarSuiteには多数のテンプレートが追加されていました。
StarSuiteには多数のフォントが追加されていました。8のLinux版で15書体、9で13書体です。8のうち14書体、9のすべてのフォントがリコー製で、Microsoft Officeとの相互運用性向上のために追加されていました。そればかりではなく、MSゴシック/明朝の元になったフォントも追加されており、LinuxやSolarisやMac OS X (当時)とWindowsで作成されたドキュメントの相互運用性についても考慮されていました。
StarSuite 6.0から8までは、Adabas Dというデータベースが追加されていました。確認したところ9にはありませんでした。おそらくHSQLDBが追加され、データベースを別途添付する必要がなくなったものと思われます。
筆者が確認したところでは、StarSuite 8ではSun Microsystemsによるサポート(初回問い合わせから60日間3回まで)が、9では販売会社(ソースネクスト)などによるサポートが添付されていました。
StarSuite/Oracle Open Office | OpenOffice.org |
---|---|
StarSuite 6.0 | 1.0.x |
StarSuite 7 | 1.1.x |
StarSuite 8 | 2.0.x〜2.4.x |
StarSuite 9 | 3.0.x〜3.2.0 |
Oracle Open Office 3.2.1 | 3.2.1 |
Oracle Open Office 3.3.0 | 3.3.0 RC |
Oracle Open Office 3.3.1 | 3.3.0 |
StarSuite 6.0は日本で最初に発売されたStarSuiteであり、同時に日本語向けに開発された最初のStarSuiteでもあるわけです。換言すればその前までは日本語などのいわゆるCJK言語のサポートはありませんでした。
OpenOffice.org 1.0.xはまるで使いものになりませんでしたが、StarSuite 6.0は普通に使えていたことを覚えています。というのも、前者には禁則処理機能がありませんでした。公開できないソースコードを使用しており、後者のみの対応だったと聞いています。
翻訳はSun Microsystemsが翻訳会社に外注していたようです。この頃の翻訳も若干は現在も残っています。
StarSuite 7は、実は6.1として開発されていました。"Early Access"はSun Microsystems用語で、"Beta"と同じ意味だと思ってください。実は筆者は開発にテスターとして参加しており、手元にCD−Rがあるのです。当時5年間のNDAを結びましたが、切れてからずいぶん経ち、まだCD-Rも読むことができたので、このように公開することにしました。
インストールはできましたが、評価期間切れということで起動はできませんでした。そりゃそうですよね。
StarSuite 7はWnn7とのバンドルで購入しました。なお、バージョンを6.1にしなかったのはマーケティングの都合と聞いています。
StarSuite 6.0は「使える」というレベルでしたが、実用的なレベルに達したのは7からでしょうか。PDFエクスポートが実装されたのが7から(OpenOffice.orgだと1.1から)で、これは当時のMicrosoft Officeにはできないことでした。
1年間という期限付きとはいえ1980円で販売されていたのはすごいなぁと今となっては思います。
マニュアルは今でもOracleのWebサイトで公開しているようです。アップデーターも公開して欲しいところですが。
StarSuite 8は今は亡きツクモなんば店で、OEM版としてPCパーツと一緒に買った記憶があります。価格もえらく安かった気がします。1000円とか2000円とかそんな感じで。
Googleパックで無償配布されていたのが強く印象に残っていますが、筆者は全く使用していませんでした。前述のとおりOEM版が安く手に入りましたしね。
8からは今風のインストーラーになりました。なぜか英語だったのですが。
どうしてこのようなものがうちにあるのか全く覚えていませんが、掃除をしていたら出てきました。
これがどういうものかは、故高橋信頼さんによる記事がわかりやすいと思います。
ソースネクストはSunに専用のビルドを用意させていたようで、とても驚きました。そう思った根拠は次のとおりです。
OpenOffice.orgでこれらのことをやろうとする場合、専用のビルドを用意するしかないのです。おそらくStarSuiteも同様だと思います。
Sunに専用のビルドを用意させ、なおかつ汎用版より価格を下げるという交渉をやってのけたソースネクストはすごいなと思いました。ライセンス数が1だからかも知れませんが。
専用のビルドにもかかわらず、やはりメッセージは英語でした。
StarSuite 9は当初Linux版のみをSun Microsystemsの直販(ダウンロード)で買いました。その後ソースネクストのパッケージ版も購入しました。当時の記録によると、どうも両者がほぼ同じ価格だったようです。当然パッケージ版にはWindowsなどのさまざまプラットフォーム向けのバイナリが収録されていました。ライセンス数はどちらも5ライセンスです。
当時Ubuntu Weekly Recipe 第80回でも取り上げました。今見ると若干の誤りがあります。
Oracle Open Officeは前述のとおりアップデーターのみの配布です。よってCD/DVDイメージはありません。また、あまり思い入れもないため抜粋です
StarSuiteとは直接関係ありませんが、OpenOffice.org関連の歴史に登場するマイナーなもの達を見ていきましょう。
これまた英語版Wikipediaに詳しいのですが、IBMがOpenOffice.orgとEclipseを悪魔合体させて生み出したオフィススイートです。かつては誰でもダウンロードは無料ででき、IBMのサポートサービスを買ってる人にはサポートも提供されていたようです。現在は開発を終了し、その後継がApache Open Office 4.0でしたが、すでにIBMはApache OpenOfficeの開発からも撤退し、Lotus時代から数えると30年以上断続的ではあるものの継続したオフィススイートの開発は終焉を迎えました。
「悪魔合体」というは決して非難しているわけではなく、それほど真面目に使った経験があるわけではないですが、よく出来ていたというか使いやすかったように思います。ただ、メンテナンスはすごく大変そうで、よくやったなぁというのが率直な感想です。
メニューの翻訳はOpenOffice.orgのものは全く使用しておらず、IBMが独自に行っていました。よって、同じ用語でも翻訳に差異が見られます。
勘違いされがちですが、Apache OpenOffice 4.0以降のサイドバー機能はIBM Lotus Symphonyからソースコードを持ってきたわけではありません。あれは一からデザインし直されたものです。そもそも、IBM Lotus Symphonyでは「プロパティパネル」と呼ばれていました。
このスクリーンショットは筆者のWindows 10 (Windows 8→8.1からアップグレードしたもの) にインストールされているものです。
Oracle時代に最後にリリースされたOpenOffice.orgは3.4 Betaでした。前述のOracleがOpenOffice.orgの開発を取りやめるという発表をする3日前のことでした。だから余計に件の発表が寝耳に水だったことを覚えていますし、おそらく従事していた社員たちもそうだったことでしょう。Oracleの上層部以外は誰も最後のリリースになるなんて思ってもいなかったのです。たぶん。
リリースノートやWikiは残っていますが、インストーラー自体はかなり慎重に探さないと見つかりませんでした。
もし3.4がリリースされたとしても、日本語版のリリースはない予定でした。OpenOffice.org日本語プロジェクトはOracleとはまた異なる問題があったことがわかります。
これこそ徒花中の徒花、今でも混乱の様子を読むことができます。筆者の記憶では結局Apache Software Foundationと折り合いがつかずに消えました。
OracleをレイオフされたOpenOffice.orgの開発者は充分な開発経験を積んでいるわけですから、そういう人たちが何らかの形でも継続するのであれば歓迎すべきことだと当時は思いました。
Apache OpenOfficeはライセンスも名前も変わったので、どちらも変えずに続けたかったのかも知れませんが、それはApache OpenOfficeはいい顔しないだろうことは想像に固くありません。というかOpenOfffice.org時代に同じことをLibreOfficeにもしたじゃないかと言いたくなります。寄付だけでフルタイムの開発者を雇用し、名前もライセンスも変えずに継続するというのはどう考えても無理のあるプランなので、徒花となるのも宜なるかなという感じですが、あくまで結果論です。
とはいえ出てきたもの(White Label Office 3.3.1 RC1)はいくつか面白い点があるので、ここで紹介します。
前述のとおりIBM Lotus SymphonyはEclipseとOpenOffice.orgを悪魔合体したものですが、その後者の部分のソースコードが公開され、それをビルドしたのがこれです。
詳細はWikiにあります。バイナリのダウンロードもできますが、オススメはしません。Symphonyの機能を見ると、Apache OpenOffice/LibreOfficeにも取り込まれていない機能が散見します。"Support speaker notes in normal view"と"Improved usability and function of importing external data"は特に便利そうです。というか実際便利でした。実は公開されてからしばらく使ってました(・ω<)。
全部の機能が取り込まれればよかったのですけど、そうはならなかったので徒花と言ってもいいのではないでしょうか。